サロンのコンサートは若手からヴェテランまで、ヨーロッパや日本の演奏家をご紹介し、
演奏家とお客様の打ち解けた親密さと音楽の親しみやすさを味わっていただけます。
これからも心地よい歌声、ダイナミックな中に澄んだピアノ演奏、美しい器楽アンサンブルの響きを、お楽しみください。


「ショパン」2007年6月号より
  クロイツァー豊子メモリアルサロン第1回定期演奏会
  「室井摩耶子〜サロンで聴くピアノコンサート」2007年4月15日公演
西武池袋線の大泉学園駅にほど近い住宅街の一画に瀟洒な洋館がそびえている。日本のピアノ音楽界の大恩人、レオニード・クロイツァーの妻で多くの後進を育てたクロイツァー豊子さんが後半生を過ごした家だ。クロイツァーは1953年に、豊子夫人は1990年に世を去ったが、夫妻の養女で声楽家のクロイツァー凉子さんが一昨年に建物を改修して『クロイツァー豊子メモリアルサロン』をオープンさせ、夫妻の音楽の伝統を継承している。凉子さんは豊子夫人の姪で、幼いときからクロイツァーの音楽と人柄に接して育った。そんな彼女の願いは、一流演奏家の生演奏を至近距離で楽しむ空間を音楽ファンに提供すること。その夢叶って開設されたこのアットホームな空間からはすでに何回かのコンサートが発信されてきたが、今春から定期演奏会が発足、その第1回が4月15日、日曜日の昼下がり、ピアノ界の最長老、室井摩耶子さんを迎えてなごやかに開催された。 東京音楽学校時代にレオニード・クロイツァーの薫陶を受けた室井さんは豊子夫人の妹弟子にもあたり、第1回定期演奏会を飾るにふさわしい演奏家だ。まず、師との最初の出会いと強烈な印象、正式に師事するようになってからの思い出をしみじみと語ったのち、モーツァルトのピアノソナタ第8番イ短調K310とアダージョロ短調K540を演奏。2曲とも作曲家の内面に迫る中身の濃い作品だが、とりわけロ短調のアダージョでは、大正生まれとは信じがたい気迫にみちた室井さんの演奏からモーツァルトの慟哭すら立ち昇り、聴き手の胸をえぐった。後半ではクロイツァーがしばしばコンサートの開幕曲に選んだというブラームスの変ホ長調のスケルツォが、ありし日の師を偲びながら感慨深く、しかしエネルギッシュに奏された。(萩谷由喜子・音楽評論家)

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